2020年の制度改正によって、iDeCo(個人型確定拠出年金)と企業型DC(個人型確定拠出年金)の併用が可能になりました。これまで企業型DCのみに加入していた会社員の方でもiDeCoとの併用で、より魅力的な金融商品を選べます。
ただし、メリットだけではなくデメリットも存在します。そこで今回は、iDeCoと企業型DCの併用に伴うメリットとデメリットについて解説。各制度の併用を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
iDeCoと企業型DCの概要
iDeCoと企業型DCは、どちらも自分で掛金を運用して老後の資産づくりに活用できる年金制度です。ただし、加入対象者や拠出限度額などは異なります。
制度/項目 | iDeCo(個人型確定拠出年金) | 企業型DC(個人型確定拠出年金) |
加入対象者 | 20〜65歳未満の方 | 企業型DCを導入している企業に勤める従業員 |
掛金の拠出者 | 加入者 | 企業(加入者が任意で掛金の上乗せも可能) |
拠出限度額 | 自営業者:68,000円 | 月額27,500〜55,000円(他の企業年金等によって異なる) |
会社員:12,000〜23,000円 | ||
公務員:12,000円 | ||
専業主婦:23,000円 | ||
積み立て期間 | 65歳まで | 70歳まで(企業によって異なる可能性あり) |
掛金に関する税制優遇 | 全額所得控除の対象 | 事業主掛金:全額非課税(退職給付費用として全額損金算入が可能) |
加入者掛金:全額所得控除の対象 | ||
運用商品 | 個人で選んだ金融機関の商品 | 企業が利用している金融機関の商品 |
運用に掛かる手数料負担 | 個人負担 | 企業負担 |
掛金の支払い方法 | 加入者の給与天引き・口座振替 | 企業が口座振込や口座振替で納付 |
iDeCoとは?
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、自分で拠出した掛金を運用して資産形成を行う年金制度のこと。国民年金や厚生年金といった公的年金とは別に給付を受けられるので、より豊かな老後生活を送るために欠かせない仕組みのひとつです。
加入者が金融機関や運用商品などを自由に決められるのがメリット。ただし、掛金や口座手数料などを自ら負担する必要があります。
企業型DCとは?
企業型DC(個人型確定拠出年金)とは、企業が掛金を拠出して従業員である加入者が年金資産の運用を行う制度のこと。老後の備えという点ではiDeCoと同様ですが、加入対象者や掛金の拠出などは異なります。
企業DCは退職金制度の一部として実施されるほか、福利厚生として取り入れられるので、企業側が金融機関の選定などを行います。そのため、iDeCoとは違い、自ら選択できる幅が限られてしまうのはデメリットです。
iDeCoと企業型DCを併用する3つの条件
iDeCoと企業型DCを変容するには、以下の条件を満たす必要があります。それぞれ詳しく解説します。
- iDeCoと企業型DCの事業主掛金が各月拠出であること
- iDeCo+企業型DCの事業主掛金の合計が拠出限度額を超えないこと
- 企業型DCのマッチング拠出をしていないこと
条件①:iDeCoと企業型DCの事業主掛金が各月拠出であること
iDeCoと企業型DCは、掛金を年一括で支払う「年単位拠出」と、月単位で支払う「各月拠出」があります。どちらか一方を利用する場合は年単位拠出と各月拠出で選択可能ですが、併用するにあたっては各月拠出に限ります。
事業主掛金が各月拠出ではない場合、iDeCoと企業型DCの併用はできないため注意しておきましょう。
条件②:iDeCo+企業型DCの事業主掛金の合計が拠出限度額を超えないこと
iDeCoと企業型DCを併用する場合も事業主掛金の上限が定められています。iDeCoのほかに企業型DCのみ加入しているなら、掛金の上限は月額55,000円(うちiDeCoの上限は20,000円)です。
また、企業型DCに加えて、確定給付企業年金などのほかの制度にも加入している場合は、掛金の上限は月額27,500円(うちiDeCoの上限は12,000円)となります。制度の併用を検討している方は、限度額を超えないように金額の調整をしてみてください。
加入している制度/掛金 | 企業型DCとiDeCoのみ | 企業型DCと他の制度に加え、iDeCoに加入する場合 |
企業型DCの事業主掛金(①) | 55,000円 | 27,500円 |
iDeCoの掛金(②) | 20,000円 | 12,000円 |
①と②の合計 | 55,000円(うちiDeCoの上限20,000円) | 27,500円(うちiDeCoの上限12,000円) |
条件③:企業型DCのマッチング拠出をしていないこと
iDeCoと企業型DCを併用する条件として、マッチング拠出をしていないことも挙げられます。マッチング拠出とは企業が拠出する掛金に、加入者が掛金を上乗せできる仕組みのことです。
マッチング拠出を活用しているとiDeCoと企業型DCの併用はできないので注意が必要。現在マッチング拠出を行なっており、iDeCoへの加入を検討している場合は、マッチング拠出の停止手続きをしたうえで、iDeCoに加入する必要があります。
具体的な停止手続きなどに関しては、勤務先に確認してみてください。
iDeCoと企業型DCを併用するメリット
iDeCoと企業型DCを併用する主なメリットは以下の3つです。
- 節税効果を活かしながら老後資金を手厚くできる
- 商品の選択肢が広がる
- 拠出可能枠を有効に活用できる
1.節税効果を活かしながら老後資金を手厚くできる
iDeCoと企業型DCを併用することで、節税効果を活かしながらより老後の資金を手厚くすることができます。具体的には、掛金の全額控除や運用益の非課税などがあります。
掛金の全額控除では積み立てを行なっていれば、所得税や住民税の負担を軽減できるのがメリット。また、通常の運用益に課税される源泉分離課税20.315%が非課税になるため、その分効率的に資金を運用できます。
2.商品の選択肢が広がる
企業型DCの場合、勤務先が使用している金融機関に制限されてしまうので、選べる商品の幅が狭くなってしまいます。しかし、iDeCoを併用することで自分の運用したい商品を取り扱っている金融機関を選択できます。
商品ラインナップを広げたい方や運用したい商品が明確に決まっている方には大きなメリットです。ただし、必要な手続きなどを全て自分で行わなければならない点は留意しておきましょう。
3.拠出可能枠を有効に活用できる
iDeCoとの併用によって、拠出可能枠をより有効に活用できます。従来はマッチング拠出を活用することで拠出額を増やせたものの、企業の掛金を上回ることができませんでした。
そのため、掛金の上限額が55,000円であっても企業の掛金が10,000円なら、マッチング拠出で加入者が拠出できる上限金額も10,000円までと制限されてしまうことも。しかし、iDeCoとの併用によって企業の掛金に関係なく、拠出限度額の範囲内であれば加入者が上乗せできるようになりました。
これまで企業の掛金によって制限されてしまっていた方は、iDeCoを併用することによって掛金を増やせます。
iDeCoと企業型DCを併用するデメリット
iDeCoと企業型DCを併用することで得られるメリットは多いのですが、一方でデメリットも存在します。主なデメリットは以下の3つです。
- マッチング拠出よりも拠出額が少なくなる場合も
- iDeCoの口座管理手数料が掛かる
- 管理する口座の数が増える
1.マッチング拠出より拠出額が少なくなる場合も
マッチング拠出とiDeCoの併用はできないため、どちらか一方を選ぶ必要があります。その際に併用する制度によっては、拠出額が少なくなってしまうので注意が必要です。
マッチング拠出の上限額は、事業主掛金との合計で月額55,000円(うち本人掛金額27,500円)が上限です。一方でiDeCoの上限額は最大20,000円のため、事業主掛金が20,000円以上の場合はiDeCoとの併用で拠出額が減ってしまいます。
事業主掛金額が20,000円未満ならiDeCo、20,000円を超える場合はマッチング拠出を選ぶのがおすすめです。なお、拠出額だけではなく、自分が運用したい商品が選択できるかという点も併せて注目してみてください。
2.iDeCoの口座管理手数料が掛かる
企業型DCの口座管理手数料は、原則として勤め先の企業が負担します。しかし、iDeCoは個人で加入する必要があるので、口座管理手数料を自分で負担しなければなりません。
なお、iDeCoの口座管理手数料は金融機関によって異なるため、商品と選びと併せて確認しておきたいポイントです。なかには、iDeCoの口座管理手数料が無料の金融機関もあるので、コストをなるべく抑えたい方はチェックしてみてください。
3.管理する口座の数が増える
iDeCoと企業型DCを併用する場合、同じ金融機関でも別口座で管理する必要があるので一括管理できません。そのため、それぞれの口座を管理する手間が発生してしまうのがデメリットです。
ただし、iDeCoや企業型DCは掛金と運用する商品を決めてしまえば、定期的に運用状況を確認するといった手間で済みます。管理する口座を増やしたくない場合は、企業型DCと同じ口座で管理できるマッチング拠出を検討してみてください。
iDeCoと企業型DCの併用がおすすめな人は?
以下のような方に、iDeCoと企業型DCの併用がおすすめです。
- 企業型DCの事業主掛金が低い
- 企業型DCに運用したい商品がない
一方で、マッチング拠出を継続したい方や積み立てることで家計が苦しくなってしまう方などは、iDeCo以外のことを優先するのが重要です。iDeCoは原則60歳まで資産の引き出しができないので、無理のない範囲でコツコツと積み立てましょう。
iDeCoと企業型DCを併用して老後に備えよう
これまで企業型DCのみに加入していた会社員の方などでも、iDeCoとの併用によって選択肢の幅が広がりました。また、利用している制度の状況次第では、より多くの金額を運用できるようになります。
ただし、iDeCoと企業型DCの併用はメリットだけではないため注意が必要。メリットとデメリットについて把握したうえで、老後の資産づくりに役立てましょう。